其の四


「お前達の…お前達の、思い通りにはさせんぞおおぉぉぉおおっ!!」
両脇に立つデス戦闘員達の手によって、無理矢理左右に開かされがっちりと掴まれている逞しい両腕。
その腕の筋肉が、今まで以上に隆々と盛り上がっていった…。

「うおおおぉぉぉおおっ!!」
ゴキィッ!
リフトマンは野太い雄叫びを発すると、渾身の力を込めて両腕を体の前で交差させた。咄嗟の事に
手を離すことも出来なかった左右の戦闘員達は、そのまま互いの頭部を鈍い音とともに激突させ、
地面に崩れるように倒れた。
リフトマンの怒りが、一時的に毒の効果を上回ったのである。
「ゲリッ!?バカな、どこにそんな力が!?えぇい、怯むな!ヤツは既にボロボロだっ!一斉に飛び
掛かれぇーーーっ!!」
突然の反撃に焦りの色を隠せないトカゲリアンが叫ぶと、デス戦闘員達は一斉にリフトマンに襲い
掛かっていった。
「ギギィーッ!」
「むっ!」
パシィッ!
戦闘員の放つパンチを、掌で受けるリフトマン。そのまま相手の拳を掴み、丸太のように太い腕の
筋肉を盛り上げると、驚異的な握力でその拳を砕き潰したっ!
「ギッ!?ギギギィーーーッ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……俺は…ここで倒れるわけにはいかんのだ……。どうしたぁっ!…かかって
こんかああぁぁぁあっ!!」
今までのダメージを考えれば立っているのがやっとのはずの体で、全身から滝のように大量の汗を
噴き出しながら仁王立ちで構えるリフトマン。
その体を覆っている青い光沢を放つリフトスーツは完全に体に密着し、逞しい筋肉の盛り上がりや
大胸筋の左右に立つ乳首の突起、強制的に屹立させられた男根までも細部に至るまでくっきりと
浮き彫りにしている。捕獲罠に掛かったままの左右の脚は、いまだドクドクと赤い血を流していた。
しかしリフトマンは形振り構わず全身から怒りの闘志を剥き出しにし、闘う男の匂いを放ちながら
デス戦闘員達を睨み付けた。

バキィッ!!
ボゴォッ!!
ドガァッ!!
罠に捕らわれ一歩も動けない不利な体勢にも拘らず、リフトマンは襲い来る戦闘員を次々と倒し、
とうとう十数体いたデス戦闘員を全滅させた。
「…はぁ…はぁ…はぁ、うっ、…うむぅ……っ!」
卑劣な罠と激しい闘いによって体力を消耗したリフトマンは、全身で大きく息をして苦しげに歯を食い
縛っている。気力だけで立ってはいるが、もはや肉体的に限界なのはあきらかだった。
「ゲリゲリゲリッ!ご苦労だったな、リフトマンっ!そのボロボロの体で我が戦闘員どもを全滅させる
とは!そんなキサマに相応しいプレゼントをくれてやろう!」
離れた所でリフトマンと戦闘員の闘いを眺めていたトカゲリアンは、そう言うと地面に接地していた
巨大な尻尾を動かし、背後から頭部の上まで持ち上げ、その鋭い先端がリフトマンに向くように固定
した。
「はぁ、はぁ…な、なにぃっ…!?」
「ゲリゲリッ!これがオレ様の必殺兵器、ジャイアントテールランスだ!リフトマン!こいつでキサマの
分厚いどてっ腹に、風穴を開けてやるゾっ!!ゲリゲリィーッ!!」
トカゲリアンは、この必殺技のためにエネルギーを蓄えていた。毒を塗った捕獲罠とデス戦闘員による
リンチで、リフトマンが体力を消耗し動けなくなるこの時を虎視眈々と待っていたのだ。
「はぁ、はぁ……畜生ぅっ!…卑怯だぞぉっ!」
「ゲリゲリリィーッ!何とでも吠えるがいい!鍛え抜かれた逞しい肉体を過信し、体一つで突っ込んで
きたキサマがバカなのだっ!ゲリーッ!」
「くっ……くそぉっ!」
リフトマンは、悔しさに拳を握り締め全身をワナワナと震わせた。しかし捕獲罠により逃げることも出来ず、
満身創痍のリフトマンにはどうすることもできなかった。

キュイィィィィィィィィィーーーンッ!
まるで大きなトカゲの尻尾…その巨大な先端が、ドリルのように高速回転を始めた。
「くっ……!」
リフトマンは全身の筋肉を緊張させ身構えた。避ける事ができない以上、受け止めるしかない。しかし、
いまのリフトマンにそれが可能なのか…。
(たとえ不可能でも、受け止めるしかないっ!…俺は、悪を打ち砕く為に闘う男…リフトマンなんだっ!!)
悲壮な決意を胸に、リフトマンは尻を突き出し腰を屈めた体勢に構えた。
もとより汗まみれの厳つい顔に、脂汗が浮き出る…。
「ゲリゲリゲリッ!リフトマン!とうとうキサマも最後の時がきたようだな。…くらええぇぇーーーーーっ!!」
ボシュゥゥゥーーーーーッ!!
トカゲリアンが叫ぶと、その不気味な尻尾の巨大な先端がリフトマンに向かって発射された。
「ぐっ…むうううぅぅぅっ!!」
リフトマンは、自分に向かって飛んでくる巨大な槍の先端から目を離さずに、全身の筋肉に力を込めた。


そして…………



ズボオオォォォォォォォォッ!

「………な…っ!?」
「ゲリッ!?」
尻尾の槍が到達する直前、リフトマンの視界に何かが飛び込んできた。
一瞬、なにが起こったのかわからない…。それはトカゲリアンも同じであった。
尻を突き出し、腰を屈めて身構えていたリフトマンの前で、作業用の白いツナギがみるみる赤く染まって
いく。その背中からは巨大な尻尾の槍が突き出し、串刺し状態になっていた。
「…なぜ……なぜ、お前が…ここに……?」
リフトマンは震える声で呟いた。
その串刺しになった若者は、ゆっくりとリフトマンの方に振り向き、口を開いて……


ゴポォォォッ!

大量の血を吐き出しながら、リフトマンの胸に倒れこんだ。

「義人っ!!………義人おおおぉぉぉぉぉおおっ!!!」

リフトマンの絶叫が、廃工場の広場に響き渡った。

つづく

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