其の参



『…知らせなきゃ………はやく、おっちゃんに知らせなきゃ……』


ダイサクが沼の化物を倒してから数日後…。

そんなダイサクの死闘を知る由も無い村人達は、村長の家に集まって昼間から酒盛りを始めていた。
近隣の村々が集まり行われる豊作を祈願した祭りを三日後に控え、打ち合わせと称した宴が行われて
いたのだ。
今日から三日間、村人達は仕事を休め、祭りの準備に取り掛かる。
年に一度の楽しみであるこの祭りの一番の目玉は、何といっても近隣の村から集められた力自慢が
競い合う「奉納相撲」だ。
だが、奉納相撲の話になった途端、賑やかだった酒の席は暗く沈んでしまった。

「…毎年、うちの村が一番じゃったが、今年は………のぅ…。」
「そうじゃなぁ…今年は……無理かもしれんのう…。」
「やはり、ダイサクがおらんとのぉ…あいつは息子を亡くしてから、いもしない化物のことで頭がいっぱい
じゃからなぁ…。」
「気持ちは分かるが…化物などおるはず無いのにのぉ…。」

皆口々に、人が変わった様に塞ぎこんでしまったダイサクを残念に思った。

「…なぁにを辛気臭い顔しとるんじゃぁっ。ワシがダイサクの分まで頑張っちゃるけぇ、心配すんなぁっ。
ドォ〜ンと、まかしとけぃ!」

なんとか場を盛り上げようと、ヘイゾウが胸を叩いた。
しかし隣村の力自慢達を相手に勝ち抜く自信は無く、他の誰よりもヘイゾウ自身がダイサクの参加を
願っていた…。



ガラガララッ!

その時、村長の家の戸口が勢いよく開かれた。
何事かと村人達が目をやると、なんとそこには、汗と土埃で薄汚れた廻しをきりりと締めたダイサクが、
仁王立ちで立っているではないか。
突然の事に呆気にとられて声も出ない村人達をよそに、ダイサクは宴の席に上がり込んだ。
ここに来る前に四股でも踏んでいたのであろうか、その逞しい肉体は汗に塗れてらてらと光って見える。
村人達が座っている席の中央までくると、ダイサクは野太い声でぽつりと言った。

「………出るぞ、奉納相撲。」



……………ワァッ!!

一瞬の間をおいて、村人達は歓喜の声をあげた。
そして立ち上がるとダイサクを取り囲み、村一番の剛力に声援を送った。

「よく…よく来たなぁ!ダイサクっ!」
「それでこそダイサクじゃぁ!ワシは信じとったぞ!」
「これで今年も、うちの村が一番じゃぁっ!!」

…村人達の歓声を浴びながら、いまだダイサクに笑顔は戻っていない。しかし沼の化物を倒したことで、
ダイサクの心は一つ吹っ切れたようであった。
……化物の最後の言葉が、気にはなっていたが。

「さっそくだが、稽古がしてぇ。ヘイゾウ、付き合ってくれ。」

ダイサクがそう言うと、ヘイゾウは顔の前で手を大袈裟に振って答えた。

「なっ、馬鹿言うでねぇっ。今日は祭りの打ち入りだ、ほれ、おめぇも飲めっ。」
「いや、俺は…。」

ダイサクが酒を拒もうとすると、事の成り行きを見守っていた村長が声をかけた。

「まあまあダイサクさん、相撲の稽古は明日みっちりやってもらうとして、今日のところは皆さんと一緒に
飲みましょうや。…キヌさん、これを。」
「はい、村長さん。」

キヌと呼ばれた女は村長から酒瓶を受け取ると、ダイサクのもとに近づき杯を渡した。
彼女は、ダイサクの死んだ女房…ユノの一番親しかった友人である。ダイサクの汗に塗れた雄々しい
肉体に目をやり、少し頬を赤く染めながらも、キヌは村長からの酒をダイサクに勧めた。

「さ、ダイサクさん。どうぞ。」
「…お、おう……。」

亡き女房の親友から注がれては、ダイサクも無下に断るわけにはいかない。
村人達が見守る中、廻し一丁の格好でどっかと胡坐をかくと、杯の酒を一気に飲み干した。


……………ドクンッ!

「!?………う……お…?」

ダイサクは、自分の身に何が起きたのか分からなかった。
一瞬、自らの鼓動が大きく聞こえた途端、身体が痺れて思うように動けなくなっていた。
そして異様な熱さが全身に拡がっていく。
一杯の酒で酔い潰れるようなダイサクではない。ではこの痺れは、熱はいったい…。
急激に火照り始めた肉体に戸惑うダイサクに対し、離れた席に座っている村長が俯きながら口を開いた。

「…どうかね?ダイサクさん。この日のために用意した、特別な酒のお味は。」
「……ハァ、ハァ…そ、村長…っ…これ、は……いったい…。」
「身体が熱いでしょう?その汗まみれの薄汚い廻しの中で、アンタの一物も反り返っているはずだ…
ヒッヒ…。」
「…ハァ……ハァ…………くぅ…っ。」
「ワタシはねぇ、この日がくるのをずぅっと待っていたんだよ……ずぅっとね…。」

そう言って顔をあげた村長の目は、血のように真っ赤に染まっていた。

「…っ!?……村、長っ……いや………貴様、いったい……。」
「ヒッヒッ…あの老いぼれと人知れず入れ替わって以来、コツコツと準備をしてきたんじゃよ。ワタシは
沼の奴と違って力は無いが、ココで勝負するんでねぇ。」

村長…の姿をした化物は、そう言って自分の頭を指差すと厭らしい笑いを浮かべた。

「くそっ…!……化物めっ………ハァ、ハァ…。」
「あの沼の奴は、力が強いのをいいことに威張りくさっておったから、アンタが倒してくれて清々しとるん
じゃよ。…まぁ奴には、少しは良い目を見させては貰ったがね…。」
「……なに…っ?」
「…お裾分けしてもらったんじゃよ。アンタの息子の血、なかなか良い味じゃった。ヒッヒッヒ…。」
「!!…き、貴様あああぁぁぁぁっ!!」

ガクッ!

ダイサクは立ち上がろうとしたが、身体に力が入らない。目の前に息子の敵がもう一体いるというのに、
尻餅をついた体勢のままワナワナと四肢を震わせることしか出来なかった。

「ヒッヒ…いい面じゃぁ。アンタが悔しがれば悔しがるほど、アンタの精は濃厚な味になるんじゃよ…。」
「畜生っ!…ハァ、ハァ……誰が、貴様なんぞに……くぅっ!」

村長の姿をした化物の狙いは、やはりダイサクの精であった。
化物の酒を飲まされたダイサクの男根は、熱や痺れで思うように動けない肉体とは裏腹に、汗臭い廻し
の中で痛いほど怒張しびくびくと脈打っている。

「ハァ…ハァ…くっ……おい、みんな!…これで分かっただろっ…化物は、本当にいるんだ!……おい!
…聞いているのかっ!?」

そう言って村人達に目をやったダイサクは愕然とした。

「なっ………!?」

いつの間にかダイサクを取り囲むように集まっていた村人達全員、みな村長の姿をした化物と同じ、赤い
目をしていたのだ。

「…何ヶ月にもわたって、暗示をかけてきたんじゃよ。こいつらは皆、ワタシの念で動く操り人形じゃ…。
ヒッヒ…。」

化物が、真っ赤な目を不気味に歪めて笑った。

「なん…だと!?…ハァ、ハァ……おい!みんな…しっかりしろ!…ヘイゾウ!」
「無駄じゃ無駄じゃぁ。…どれ、そろそろ始めてもらおうかのぉ。」

化物がそう言うと、まずヘイゾウが床に倒れているダイサクの半身を起こし、後から羽交い絞めにした。

「な、やめろぉ!…放せ、放さんかぁっ!………うぅ…!」

ダイサクの叫ぶ声にはお構いなしに、他の村人達もダイサクの逞しい腕や脚を押さえ込んだ。
ただでさえ化物の酒によって身体の自由がきかないうえに、数人掛かりで押さえつけられては、さすがの
ダイサクも抗いようがなかった。

「村一番の剛力が、いい格好じゃのぉ。…ちなみに、あの忌々しい風小僧は助けに来れんよ。生意気に
ワタシの事を嗅ぎまわっておったから、ちょいと閉じ込めてやったんでね。ヒッヒッヒ…。」
「フウタっ!?…うぐぅ………畜生っ…!」

床の上で大きく両脚を開かされたダイサクの前に、やはり化物に操られ赤い目をしたキヌが座り込んだ。
そして表情一つ変えることなく、ダイサクの汗で蒸れた廻しの前袋にその細い指をこじ入れると、ダイサク
の反り返った男根を掴み引きずり出した。

ブルンッ!

「くぅっ…!」

先走りを散らしながら勢いよく現れた男根。普段は厚い包皮に覆われた亀頭も、とうに剥けきっている。
成熟した男の強烈な臭いを発するその先端に、キヌがゆっくりと唇を近づける。

「!…おいっ……よせ…やめろぉっ!…おいキヌ、目を覚ませ!……おいっ!」



つづく

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